こんにちは、サバイサバイFXです。
チャートに現れる様々な形から、その背景にある市場心理を読み解く市場心理分析シリーズ。
今回は、「浅い抜けからの深い押し」現象を取り上げます。
この現象は4時間足、1時間足、15分足など色々な時間軸でよく起こりますので知っておいて損はないですし、背景にある市場心理を把握することでその他の場面で応用もできるようになるでしょう。
目次
抜けが浅いと押しが深くなる
今回扱う現象を以下に模式図として表しています。
端的にいうと、高値や安値のブレイク、またはレンジのブレイクが浅い場合、その後の押し戻りが深くなることが多いという現象です。
拡大図はこちら
左の図のように、高値と安値の切り上げが続いている状態から前回高値を更新するものの、そのブレイクが浅くその後深押しするケースや、右の図のようにレンジの上限を少しだけ上にブレイクした後、深く押すといったケースです。
どちらの場合も、深く押した後再び上昇して高値更新やレンジブレイクするケースもありますし、深く押した後に結局そのまま下がっていってしまうというケースもあります。
ではなぜこのような動きが起きるのかを以下で解説していきます。
市場心理解説
ケース1
実際のチャートから二つの例を取り上げます。
まず一つ目はユーロドルの2021年5月末の4時間足です。
4月から2ヶ月近く上昇が続いて、赤のボックスでレンジを形成した後高値を更新しました。
上昇継続かと思われる場面ですが、その後下記のように下落します。
直近のレンジの下限でもあった安値を更新するまでの下落となり、安値更新するんだったら高値更新しないでくれ、と言いたくなる場面です。
高値更新することで飛び乗りの買いを誘い、それを餌にして下落させる投機筋のダマシの手口だ、という可能性もありますが、ここでは相場に参加している買い手・売り手それぞれの心理面から考察してみます。
買い手の心理
高値更新したものの抜け幅が小さいということは、そこに比較的大きな売りが働いたため大きく抜けなかったということができます。
そのため買い手側は怯み、新規の買いフォローは入りにくくなります。同時に、ブレイクの後は押しが入ることを知っているため、抜けの浅さも手伝って利確(=売り)のモチベーションが働きやすくなり、ますます上がりにくくなります。
売り手の心理
中途半端な抜けは、売り手勢力にとっては買い手側の怯みとは逆に、諦めずに強気の姿勢を維持する材料となります。
ブレイクしても一旦は押しが入ることを知っているため、多少の抜けでは損切り(=買い)する動機も働きにくく、損切りによる価格上昇の力は働きにくくなります。
つまり、売り買い双方の心理をまとめると、浅い抜けによって買い手側の意思が削がれ新規フォローの買いが入りにくい一方で、売り手側は抜けが中途半端だったことで強気姿勢を崩しにくいことから損切りによる上昇圧力が働きにくい、よって深い押しになりやすいということができます。
今回のケースで言えば、すでに一定の上昇が起きた後の高値圏と捉えられることから、新規の売りが入りやすいという側面も深い押しに貢献しているかもしれません。
もう一つ例を見てみましょう。
ケース2
以下のチャートはドルフラン(USDCHF)の2021年5月末の4時間足チャートです。
4月からずっと下降トレンドが続いているのですが、ブルーの水平線で示した戻り高値をわずかですがローソク足実体で上抜けています。
ただ抜け方としてはいかにも弱々しく、案の定その後は以下のように直近安値を更新する形となりました。
先ほどの例と同様に買い手と売り手の双方の心理から考察してみます。
買い手の心理
一番目の例と同様に、高値ブレイクは果たしたものの弱々しいブレイクとなったことで、ブレイクからの押し目買いが入りが入りにくい状況であると言えるでしょう。注意深く見なければヒゲでブレイクしただけとも見受けられ、ヒゲのブレイクをブレイクとみなすかどうかで買い手勢力側の意見が割れるというのも、買いのフォローがつきにくい状況を後押ししていると見ることができます。
買い手のフォローが付きにくいため上がりにくいというのが、買い手側の背景にあった事情と捉えられます。
売り手の心理
買い手の心理で言及したように、一見するとブレイクしたのかしていないのか分かりにくい状況は、売り手を強気にさせる格好の材料です。
もともと長期下降トレンドが続いている地合いもあって、売り手勢力は強気(=含み益の人が多数)ですから、含み益を担保にして売りの増し玉を入れる心理的なハードルは低いでしょう。
高値を明確にブレイクすれば起こる可能性の高い、利確や安値掴みした売り勢の損切りが起きにくくなるのも売り勢力の強さをキープする材料になります。
以上まとめると、浅い抜けまたは抜けたかどうかわかりにくい状況によって、
・買いが入りにくい
・売りの利確や損切りが入りにくい かつ戻り売りが入りやすい
ということができます。
いかがでしたでしょうか。
今回は二つの事例で市場心理の考察を行いましたが、事例の中でも見たように、相場の環境認識(上昇の先っぽ、長らく下降トレンドが継続している、など)と合わせて市場心理を分析すると、状況をより的確に分析することができると思います。
市場心理分析=そう考えることが最も正しいと考えられる推論
答えのない問いに意味や解釈を見出す哲学の世界では、「最善の説明を導く推論」という考え方があるようです。
与えられたデータや証拠(=事実)に対して、それを最も上手く説明できる仮説を選ぶといった推論のやり方です。
市場心理分析も同じことです。
その時市場に参加していた人全員にインタビューするわけにもいかないので、あくまでこうやって考えることができるという推論・解釈の一つにすぎません。
(将棋の鑑賞戦のように、「なんでここでロングなんかしたんですか?」「いやー、上昇してるのを見てたらついね、、、」といった市場参加者の声を実際に聞くことができればそれはそれで面白そうです。)
ですが、上のような論理展開とチャートの実際の動き(=事実)が符合することから、上記のような心理が働いてマーケットを動かした可能性が高いと考えることができます。
こう考えるとチャートの動き(=事実)に整合するから、こう考えるのが正しい、という論法ですね。
今回お伝えしたかったのは、ダブルトップや三尊といった様々なフォーメーションをただ暗記するのではなく、その背後にはそれをそのように動かした人間の心理があるということを理解すれば、どのようなチャートの形になっても自分の頭で考えて、アクションが取れるようになるということです。
何より、無味乾燥なチャートが、期待、歓喜、失望、恐怖といった人間の感情のるつぼに変化し、分析するのが楽しくなると思います。